今回は、ニュースで世間を賑わせた正当な権限なき第三者による「PPAP」の商標登録出願についてお話したいと思います。
なお、商標登録出願の代理業務を行うことができるのは我々弁理士です。
商標登録出願に係る商標は、出願人が少なくとも出願の際に必要な印紙代を支払うことを条件に、商標登録できるか否かについての審査を受けます。審査の主体は特許庁審査官です。
正当な権限なき第三者による「PPAP」の出願に対して、審査の結果、通知される拒絶理由(登録できない理由)は次のような内容であると予想します。
①商標法第3条1項柱書(使用意思)
使用する意思がない商標は、この条文で拒絶されます。「PPAP」の出願人(「本出願人」と称します)は使用する意思を有していないことが想定されます。但し、この拒絶の対策は本出願人でもとれるため、そこまで効果的ではないです。
②商標法第4条1項7号(公序良俗)
公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標は、この条文で拒絶されます。
「PPAP」という曲名、フレーズで世界的に著名になったピコ太郎ご本人と全く関係のない本出願人による「PPAP」の出願は、まさにこの条文にあてはまると思います。現実的にこの条文により拒絶される可能性が最も高いです。
③商標法第4条1項15号
他人の業務に係る商品又は役務と混同を生じるおそれがある商標については、この条文で拒絶されます。
ポイントは2点です。1つ目は、曲名、フレーズである「PPAP」が標章の要件を満たしているか、という点です。
簡潔に説明すると、標章とは、人の知覚によって認識できるもののうち、文字、図形、音、色彩(これらの結合を含む)等をいいます。
参考までに、商標とは、標章のうち業として使用するものをいいます。
上述の定義に照らすと、「PPAP」は標章の要件を満たすと考えられます。
ポイントの2つ目は、他人の業務に係る商品又は役務の存在です。「PPAP」はあくまで曲名やフレーズであって、他人の業務に係る商品又は役務で使用されることによって著名になったわけではありません。
したがって、この条文での拒絶は難しいと思いますが、専門家によって意見が分かれるかもしれません。
④商標法第4条1項19号
需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似する商標であって、不正の目的で使用する商標は、この条文で拒絶されます。
報道によると、本出願人は正当な権限を有する者に売買をもちかけているので、不正の目的と判断される可能性が高いです。
しかしながら、「PPAP」はフレーズとして著名ですが、「商標」として少なくとも周知であるかについては大きな疑問があります。
したがって、この条文での拒絶は難しいと思います。
(結論)
正当な権限なき第三者による出願「PPAP」は、少なくとも4条1項7号(公序良俗)を理由に商標登録されないと予想します。
(最後に)
上述しましたとおり、「PPAP」は出願段階で保護すべき既得権益があると考えられるため、公序良俗違反を理由に拒絶される可能性が高いです。しかしながら、そのような商標はきわめて稀です。少し乱暴な表現になりますが、商標は「先に出願したもの勝ち」という側面があります。現在、商品でご使用中のネーミングや、サービスの名称で未だ登録されていない商標がありましたら、お近くの弁理士に是非お問い合わせください。