以前、新型コロナウイルスの流行によりマスクなどの医療関連商品に関する出願件数が増えたとご紹介しました。
今回は、ここ最近で権利化(実用新案登録)されたマスクを例に挙げ、どのような点で権利化を図っているのかをご説明したいと思います。
まずは次の画像をご覧ください。
上の画像は、実用新案登録がなされたマスクの画像です。
実用新案登録番号は3229974号です。
権利範囲を定める実用新案登録請求の範囲(請求項1)には、次のように記載されております。
「湾曲自在な織布製で、かつ中央部がカップ状に膨らんだマスク本体と、該マスク本体の左右両側に配設された一対の耳掛け部とを備えた立体布マスクにおいて、
前記マスク本体の左右方向の中間部には、口および鼻の前方に空間を保持する保形部材が設けられたことを特徴とする立体布マスク。」
実用新案登録請求の範囲の記載内容について簡単に説明すると、「湾曲自在な織布製で・・・立体布マスクにおいて、」の部分は公知技術であることを意味しております。
この考案の権利のポイントは、「マスク本体の左右方向の中間部に、口および鼻の前方に空間を保持する保形部材を設けた」ことです。
図中、符号13が保形部材です。
明細書には、「保形部材13は、金属製のワイヤ(図示せず)が芯材として埋設された、細長い湾曲自在な合成樹脂製のテープである。保形部材13の厚さは0.8mmである。」と記載されております。
また、明細書には、保形部材13を設けることで、「口および鼻の前方に空間が確保されるため、織布が呼吸により吸引されて口元に纏わり付き、息苦しさや不快さを感じたり、マスクの見映えが悪くなることがない。」といった効果を得ることができることが記載されております。
このように、特許出願・実用新案登録出願の書類においては、既に知られているマスクの課題を指摘し、その課題を発明(実用新案では考案)がどのようにして解決したか、を記載します。
実用新案権者でない第三者が、「マスク本体の左右方向の中間部に、口および鼻の前方に空間を保持する保形部材を設けた」マスクを販売すると、形式的には実用新案権の侵害を構成することになります。
しかしながら、実用新案は無審査で登録になるため、権利に瑕疵が含まれている蓋然性特許に比べて高くなります。それ故、実用新案権者は、第三者に警告を行う際、実用新案技術評価書(特許庁に請求するもの)を提示しなければならないことになっています。また、権利者は単に実用新案技術評価書を提示すればよいわけではなく、登録された考案が高い評価を受けていること、権利に無効理由がないことを明確にするなど、細心の注意を払わなければ逆に不利益を被るおそれがあります。
実用新案権は容易に取得できますが、その一方で満足に権利行使を行うことができないという側面があります。