某IT企業がSNSアプリ「LINE」で有名なLINE株式会社との特許権侵害訴訟で勝訴し、LINE株式会社が賠償金として約1400万円の支払い命令を受けた、というニュースが流れました。
今回はこのニュースについて触れたいと思います。
どの特許番号に係る特許を巡る争いかが不明であったので、「特許情報プラットフォーム」で調べたところ、2010年の特許出願から「分割出願」という制度を利用して登録された複数の特許が関与していることが判りました。18回の分割出願(1つの特許出願から18件の特許出願を新たに派生させている)を行っていることから、この発明がいかに重要なものであるか容易に想像できます。
LINE株式会社は複数の特許に対して無効審判を請求しているので、実際にはどの特許権の侵害が認定されたのか定かでありませんが、訴訟に関与していると思われる特許(特許第6089190号)を以下にご紹介します。
「(請求項1)現実世界で出会ったユーザ同士がコンピュータを利用しての交流の申込みを行うためにユーザ端末を操作したことに基づいて、所定の交流開始条件が満たされているか否か判定する交流開始条件判定手段と、
該交流開始条件判定手段により交流開始条件が満たされていると判定された複数の交流先のリストをユーザに表示するための制御を行なう交流先リスト表示制御手段とを備え、
ユーザが前記交流先リスト表示制御手段により表示された複数の交流先の内からコミュニケーションを取りたい相手を選択指定し、該選択指定した者と選択指定された相手とがユーザ端末を操作して書込んだ内容を閲覧することによりメッセージを送受信して、ネットワークを介してのコミュニケーションによる交流を支援するコンピュータシステムであって、
前記交流開始条件判定手段は、
前記ユーザ端末の位置情報を取得し、該位置情報に基づいて所定時間中に所定距離内に位置するユーザ端末を検索する検索手段と、
該検索手段により前記所定時間中に所定距離内に位置するユーザ端末が検索されたことを条件として、前記交流開始条件が満たされていると判定する位置情報利用判定手段と、を含み、
前記コンピュータ側からの制御に基づいて前記交流先のリストを前記ユーザ端末に表示させることにより、前記ユーザ同士が連絡先の個人情報を交換することなく交流できるようにしたことを特徴とする、コンピュータシステム。」
この文章には「ふるふる(スマホを振る)」といった表現が含まれていませんが、権利範囲はかなり広く感じます。
「・・であって」までの文章は公知技術を示すものなので、「前記交流会氏条件判定手段は」以降が特許を構成する具体的な要件となります。
ひとつひとつの要件を見ていきます。
(要件1)ユーザ端末の位置情報を取得し、該位置情報に基づいて所定時間中に所定距離内に位置するユーザ端末を検索する検索手段
(要件2)該検索手段により所定時間中に所定距離内に位置するユーザ端末が検索されたことを条件として、交流開始条件が満たされていると判定する位置情報利用判定手段
(要件3)コンピュータ側からの制御に基づいて交流先のリストをユーザ端末に表示させることにより、ユーザ同士が連絡先の個人情報を交換することなく交流できるようにした
要件1―3を噛み砕いて説明すると、「コンピュータが所定の時間内(例えば1分以内)に、Aさんが所持するスマホXの付近に別のスマホがないかを位置情報(おそらくGPS)を通じて探し出し、Bさんが所持するスマホYを見つけたら、スマホXの画面にBさんの個人情報(電話番号など)を、スマホYの画面にAさんの個人情報を表示させる」といったものになります。
請求項1では「個人情報」と表現されているので、電話番号やEメールアドレスのみならず、写真などの画像データも対象になるかもしれません。
この事件は興味深い点が幾つかあり、弁理士が発明し、弁理士自らが特許権者となって訴訟を提起しています。LINE株式会社も特許を無効にするための審判を請求しており、今後の行方は不透明です。
この事件は3億円の損害賠償を請求しているにかかわらず、認められた損害額は約1400万円です。損害額が妥当か否かは専門家によって意見が分かれると思いますが、あまりにも少なすぎると特許を取得するメリットが感じられなくなり、発明への意欲が低下し、ひいては各国との開発競争力を失う事態になるではないかと心配しています。
以上