VOL.3 「マリカー」を巡る問題について

VOL.3 「マリカー」を巡る問題について

2021年04月9日 【

ここ最近、知的財産に関連するニュースが世間を賑わせておりまます。今回は特に注目度の高い「マリカー」を巡る問題について、中立的な見地からお話します。この問題は、主に下記①②の事件を含んでいます。

①「マリカー」の商標登録に対する異議申し立て(終結)

②「著作権及び不正競争防止法」に基づく使用の差し止め請求、損害賠償請求(訴訟中)

これらの事件は専門家によって見解が分かれており、非常に複雑で難しい要素を含んでいます。ここでは①を中心にお話したいと思います。

 

(1)「マリカー」の商標登録に対する異議申し立て

異議申し立てを分かりやすく説明しますと、特許庁がある商標を登録したときに、第三者がその登録に「待った」をかけ、第三者が提出した資料などを参考にして特許庁が再審査する制度です。A社の請求した異議申し立てが認められなかったことは多く報道されましたが、どのような法的根拠に基づいて異議申し立てがなされたのかはあまり知られていないです。

 

A社は以下の理由で異議申し立てを行いました。

①「マリカー」は、A社の業務に係る商品・役務と出所の混同を生じるおそれがある商標であること(商標法4条1項15号)。

②「マリカー」は、A社の業務に係る商品・役務を表示するものとして日本又は外国における需要者間で広く認識されており、且つ、不正の目的をもって使用される商標であること(商標法4条1項19号)。

 

①については、「マリカー」が「マリオカート」の著名な略称であるか否かが大きなポイントです。A社は様々な証拠資料を提出してそれを証明しようと試みました。特許庁は、「マリオカート」が一定の周知性を獲得していることは認めておりますが、「マリカー」が単独で使用されることで周知性を獲得した証拠が不十分であると決定づけました。提出された証拠いかんによっては、決定内容が逆になっていた可能性もありました。「マリカー」と「マリオカート」は審査基準上、類似しません。類似しない商品等表示を根拠に商標登録を取り消すことは非常にハードルが高いです。

 

次に②が認められるためには、対比される商標が同一又は類似する関係にあることが前提となります。商標の類似は、称呼、外観、観念に基づいて判断されます。上述しましたとおり、「マリカー」と「マリオカート」は称呼、外観、観念の何れも相紛らわしくないため、非類似であると判断されました。したがって、不正の目的の有無にかかわらず、商標登録の取り消しはできなかったと思います。

 

以上が登録異議申し立ての概要です。

A社にとっては酷な決定ですが、仮に取消決定がなされた場合、B社に深刻な事態が生じていたと思います。仮にB社による「マリカー」の商標登録が取り消された場合、その後、例えばA社が「マリカー」を商標登録出願することで、今度はA社が「マリカー」を商標登録できる可能性があります。A社が「マリカー」を商標登録すれば、A社がB社に対して使用の差し止めや損害賠償を請求することができます。すなわち、取消決定がなされると、B社は「マリカー」の商標権を失うのみならず、使用さえもできなくなる事態にまで発展した可能性があります。特許庁がこの点まで考慮したのかは不明ですが、登録異議や無効審判の結論は当事者に甚大な影響を与えます。

皆様におかれましても、自己の業務に係る商品やサービスで使用しているネーミング・ロゴで商標登録していないものがありましたら、十分にご注意ください。

 

(2)著作権及び不正競争防止法に基づく使用の差し止め請求等

この事件は訴訟係属中なので詳しいお話を省略させて頂きます。

不正競争防止法で私個人が考えるポイントは、「著名なキャラクターのコスチューム(付け髭を含む)を利用者が着用し、公道でカートを運転させるサービスが人気ゲームの世界観に酷似していること。この行為が、「マリオカート」が備える顧客吸引力に便乗する行為に該当するか否か、すなわち不正の目的があるか否か。」です。

上衣のみが似ているのであればここまで大きな問題にはなりませんが、帽子、付け髭、カートの運転席に着座したときの容姿等を総合的に勘案すると、人気ゲームをかなり意識しているように思います。

平成29年2月に、スーパーマリオやルイージが着用する帽子の立体商標が「登録査定」を受けております。出願人はA社で、早ければ1,2ヶ月後に商標権が正式に付与されると思います。

商標権が付与された場合、A社はこの権利に基づいて新たに差し止め等の請求をすると予想されます。

「マリカー」を巡る諸問題はこの後も長く続きそうです。

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