今回は「弁理士」についてお話します。私は立場上、様々な方と名刺交換をする機会が多いのですが、弁理士という職業は認知度が非常に低く、仕事内容までご存知の方はごく僅かです。職業を弁理士と告げれば、「便利屋さんですか?」と返されるのが鉄板です。話題になったドラマ「下町ロケット」で弁理士が一度も登場しなかったのが非常に残念です。我々弁理士が積極的な周知活動を怠った結果に尽きます。
弁理士は特許、実用新案、意匠、商標、著作権法、不正競争防止法の専門家です。
弁理士になるためには、上記6つの法域に「条約」を加えた範囲から出題される3つの試験、より具体的にはマークシート、論文、口述を全てクリアする必要があります。論文は必須科目と選択科目で構成されており、選択科目には知的財産権以外の専門分野も含まれています。全ての試験に合格したからといって直ぐに弁理士登録できるわけではなく、所定の研修を受けた後に登録申請を行う必要があります。
2017年2月末時点での弁理士登録者数は全国で約11,000人です。他士業の方からみると非常に少なく感じると思います。弁理士登録者数のうち男性の割合は85%以上です。沖縄県を含む九州に在籍する弁理士の数は242人、そのうち福岡県は158人です。そのため、「弁理士の数が少ないから仕事の取り合いがなくていいですね。」とよく言われるのですが、全然そんなことはないのが実情です。日本国内では特許業務を主な収入源とする特許事務所が多いですが、特許業務は企業が設置する「知的財産部」から依頼を受けるケースが多いです。「知的財産部」は関東及び近畿に密集しているため、特許業務の殆どはこの地域から発生します。そのため、弁理士の数は関東及び近畿で約9割近くを占めます。地域別における弁理士登録者数の1位は東京(全体の約55.6%)、2位は大阪(全体の約15.3%)です。ちなみに福岡は10位前後(全体の約0.8%)です。このような理由により、地方の弁理士は都市部の弁理士に比べて不利だと思います。
次に、弁理士の日々の仕事内容の一例として、特許業務を簡単にご紹介します。例えば、クライアントである企業の従業員によって創作された発明を特許にしたいとの相談を受けたとき、弁理士はその企業に出向いて打ち合わせを行います。企業から特許事務所にお越し頂くケースもあります。打ち合わせでは、実物や図面等を通じて従来技術はどうなっているか、従来技術の課題は何か、特許にしたい発明がどのようにして従来技術の課題を解決したのか、発明の具体的構造や特徴箇所は何か、作用効果は何か、等々をディスカッションします。打ち合わせ後、弁理士は明細書(発明を詳しく説明するための文章)、特許請求の範囲(具体的に何を特許にしたいのかを説明する文章)、図面を作成します。図面は必須の提出物ではありませんが、発明の理解を容易にするためにほぼ必要です。この明細書等の作成が特許実務のメインであり、弁理士としての能力が試される最も重要な仕事といっても過言ではありません。各種書類の案文を作成したならば、クライアントに内容をチェックしてもらいます。修正作業等を経てクライアントからOKの返事を頂いたならば、弁理士は特許庁へ「出願」手続をとります。メディア等で「特許申請」、「商標申請」という言葉をよく耳にしますが、条文に即すとこの表現は適切ではありません。
特許出願後、出願人は「出願審査請求」という手続を出願日から3年以内に行うことで(通常は弁理士が代理します)、特許庁の審査官による審査が行われます。審査官は、拒絶の理由を発見しないときは「特許査定」を通知し、新規性や進歩性がないと判断した場合は「拒絶理由」を通知します。拒絶理由が通知された場合、弁理士は拒絶理由を解消するために「意見書」や「手続補正書」を作成し、特許庁に提出します。この仕事は「中間処理」と呼ばれ、特許事務所にとって大切な収入源の一つとなっています。
このような手続を経て、我々弁理士は出願に係る発明の権利化、すなわち特許を目指します。