今回は、特許出願の相談についてです。
特許を取得したいとご相談に来られる方から提示される発明としては、アイデア段階である場合と、既に物が完成している場合とがあります。
既に物が完成している場合は、実物や設計図等を視認しながら打ち合わせができるため、我々専門家にとっても有難いのですが、既に販売を開始し、或いは社外の取引先等に物を見せてしまったというケースがよくあります。
過去にもご説明しましたが、特許を取得するためには、特許出願前にその発明が不特定の者に知られていないこと(新規性)、新規性を有していても当業者が新規性のない発明に基づいて容易に想到できないこと(進歩性)、を満たす必要があります。当業者とは、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者を指します。
既に物を販売し、或いは取引先等に物を見せてしまうと新規性を喪失し、特許法上、特許が取得できなくなります。
その一方で、救済が全く認められないというのはあまりにも酷なので、一定の条件を満たす場合に限り、新規性を喪失しなかったものとみなす例外規定が設けられています。
いわゆる「新規性喪失の例外」と呼ばれるものです(特許法第30条)。
一定の条件としては、新規性を喪失した日から1年以内に特許出願することが必須となります。2018年6月初旬までは、適用期間が6ヵ月でしたが、法改正によって1年に延びました。また、販売行為による新規性喪失は数年前まで適用対象外でしたが、現行法では認められるようになりました。これにより、より多くの発明が新規性喪失の例外の適用を受けることができるようになりました。
ただし、我々専門家としては、新規性喪失の例外に頼ることなく、出来れば新規性を満たしている状態で特許出願することをお勧めしております。新規性喪失の例外の適用を受けるためには、新規性を喪失した事実を記した書面を提出する必要がありますが、例えば出願前に色々な媒体で宣伝してしまうと、「いつ」、「どこで」、「誰が」、「何を」、「どのようにして開示したか」、「そのときの特許を受ける権利は誰か」等々を、個々の場面ごとに正確に記載する必要があるため、手続が煩雑になります。当然、弁理士費用も嵩みます。
例えば特許出願前に、取引先にどうしても発明品を見せなければならない場合は、予め秘密保持契約を結んでおくことが大事になります。